細胞を若返らせる驚くべき化学物質を特定
人は年月を重ねるごとに老いていく。それは古今東西、すべての生命に課せられた宿命のようなものでした。
そしてだからこそ多くの人々が、老いを遅らせたり、若返ることのできる薬を開発したりしてきたのです。
今回、ハーバード大学を中心とする研究チームは、人間とマウスの皮膚細胞の老化プロセスを逆転させる能力を持つ6種類の化学物質を特定しました。
これにはTwitter上でイーロン・マスクも反応しているようです。この研究成果によって、不老不死が現実になるかもしれません。
詳細は、2023年7月12日付で科学雑誌『Aging』に掲載されました。
要点
・ハーバード大学の研究らが老化プロセスを逆転させる6種類の化学物質を特定した
・怪我、老化、加齢に伴う病気の治療に対し革命をもたらす可能性がある
「若返りの泉」が現実のものになるかもしれない
「若返りの泉」をご存知でしょうか?
若返りの泉とは、その泉の水を飲むと若返るという伝説上の泉で、古くから多くの人々の関心を寄せてきました。
プレスター・ジョンの物語やアレクサンドロス・ロマンスなどで取り上げられ、最近では『パイレーツ・オブ・カリビアン/生命の泉』にも登場しました。
神話上のこの泉の正確な場所は判明していませんが、フロリダが最も有力な説として挙げられています。
最近では、スキンケアや健康的なライフスタイルに対して、比喩的に「若返りの泉」が使用されており、多くの人が老化を防止、逆転させることを望んでいます。
そのような中、ハーバード大学の研究らは、老化プロセスを逆転させる6種類の化学物質を特定しました。
この研究の前提にあるのは、ノーベル賞を受賞した山中伸弥が発見したiPS細胞です。
iPS細胞は、白血病患者のために癌細胞を含まない血液を作ったり、神経疾患を抱えている患者のためにニューロンを作成したりするなどの治療目的に使用できます。
この成果を使って、細胞の老化を逆転させようとしたのが今回の研究です。
研究者らは、核細胞質タンパク質区画化(NCC)や老化時計などを利用したハイスループットの細胞ベースのアッセイを開発し、古い老化した細胞から若い細胞を区別しました。
ここでいう古い老化した細胞とは、増殖を停止した細胞のことで、老化を特徴付けています。
さらに、分子レベルで生物学的活性について数千から数百万のサンプルを迅速にテストすることで、1週間以内にNCCとゲノム全体の転写プロファイルを若返らせる6種類の化学混合物を同定しました。
同定された物質をヒトとマウスの細胞で実験した結果、6種類の化学物質のすべてで老化防止効果があることが示唆されました。
この発見は、怪我、老化、加齢に伴う病気の治療に対し、革命をもたらす可能性があります。
これまでの研究では、老化を逆転させるためには遺伝子治療が必要でした。これは多大な費用がかかるうえ、安全性にも問題がありました。
しかしながら、今回の研究によってコストは大幅に削減され、安全に老化を逆転させることができるかもしれないのです。
共著者のシンクレア博士は、「この新しい発見は、視力の改善から加齢に伴う病気の効果的な治療に至るまで、1つの錠剤で老化を逆転させる可能性がある」と述べています。
この研究に対し一部の専門家は懐疑的であり、安全面についても疑問が寄せられています。
したがって、さらなる研究と慎重な検討を行う必要があるでしょう。ですが、若返りの薬の開発に大きな進展をもたらしたのは確実なようです。
参考文献
Chemically induced reprogramming to reverse cellular aging
https://www.aging-us.com/article/204896/text
"Fountain of Youth" pill, claimed by Harvard scientists, sparks controversy
https://www.earth.com/news/harvard-scientists-fountain-of-youth-pill-sparks-controversy/