時間をどのように認識しているのかの新発見!線条体の活動で時間は遅くも早くもなる

時間とは何か。その問いは古今東西の賢人たちを悩ませてきました。

アインシュタインの相対性理論は、時間は一方的かつ不変的ではなく、伸び縮みすることを証明しました。

では、動物はどのようにして時間を認識しているのでしょうか?

今回、オックスフォード大学を中心とした研究チームは、神経活動が時間の認識にどのような影響を与えるかを明らかにしました

この研究は画期的なもので、脳に働きかけることで時間認識を遅らせたり早めたりできる可能性があります。

詳細は、2023年7月13日付で科学雑誌に掲載されました。

要点

・ラットの神経活動を操作して時間認識を変化させることに成功した

・行動の決定に線条体が関係していることが判明した

時間間隔の認識と線条体の活動に相関関係がある

時計(Image Credit: unsplash )

人間は規則正しい時間サイクルで生活しています。24時間毎に朝食や夕飯を取り、睡眠のためにベッドに向かいます。

これは決まったサイクルではありますが、人間がこのサイクルをどのように認識し、時間を測定しているのかはほとんど知られていません。

一定の速度を保つ時計とは異なり、人間の脳は分散した神経ネットワークのダイナミクスによって時間感覚を維持していると考えられています

この仮説はニューロンの活動パターンに依存して時間を認識していると考えるため、活動パターンが進行するペースを調べることでどのように時間を認識しているかを調べることができます。

研究者らは、異なる時間間隔を区別できるよう訓練されたラットを調べることで、線条体の活動がさまざまな速度で変化することを発見しました。

1.5秒という時間間隔を認識できるようラットを訓練しそれより早いか遅いかを判断させ、その時の線条体の活動を分析したのです。

すると、時間間隔が長いと線条体の活動はより早くなり、時間間隔が短いと遅くることが分かりました。

つまり、時間認識と線条体の活動に相関関係があることが判明したのです。

この相関関係は偶然なのか、それとも因果関係があるのかを調べるべく、新たな実験を行いました。

線条体の活動を変化させることで、時間の認識はどのように変化するのか?

脳(Image Credit: unsplash )

先行研究は、鳥の鳴き声のスピードと脳の温度に因果関係があることを示しています。

鳥の脳のある領域を冷やすと歌の速度が低下し、温めると歌の速度が上がります。脳のある領域の温度が時間認識を支配しているのです。

この先行研究をラットに応用するため、線条体の温度を変化させる熱電装置を開発し、ラットの脳を損傷しないように注意しながら実験をしました。

その結果ラットは、冷やすと活動パターンが拡張し、温めると活動パターンが縮小することを発見しました。

そこで、2つの音の間隔が1.5秒より短いか長いかを報告するよう訓練したラットに対し、線条体の温度を変化させるとどのような反応をするかを調べました。

結果は、線条体を冷やすと与えられた時間間隔が短いと認識し、温めると長いと認識しました。

つまり、線条体を温めるとラットは所定の時間間隔を実際よりも長いと判断するようになったのです。

驚くべきことに、線条体の活動パターンを変化させても、それに合わせて動物の動きが変化するわけではないということです。

動物の動きには、「いつ」「何を」行うかを決定するかと、動きを「どのように」制御するかの二つの要素が絡み合っています。

線条体は前者の決定に重要な役割を担っている一方で、後者は脳の別の領域が担っていることを示しています。

言い換えれば、行動の決定に大きく関与している脳の領域は線条体であると特定したのです。

この研究は、線条体に影響を及ぼすパーキンソン病や小脳失調症などの運動障害を解決に導く可能性があります。

時間認識と脳の関係はいまだに謎が多いままです。しかし、密接な関わりがあるのは間違いなさそうです。

参考文献

Using temperature to analyze the neural basis of a time-based decision
https://www.nature.com/articles/s41593-023-01378-5

The timekeeper within: New discovery on how the brain judges time
https://www.eurekalert.org/news-releases/995258