数百年も生きるキノコは癌にならない特殊なメカニズムを保持していた

癌になるリスクは細胞分裂が起こるたびに増加すると考えられています。

そのため、象などの長く生きる種はネズミのような短命の種よりも、癌にかかるリスクが高いと予想されてきました。

しかしながら、1975年にペトが寿命の長さと癌になるリスクに相関関係がないことを発見しました。これは「ぺトのパラドックス」として知られています。

今回、ワーゲニンゲン大学の研究者らは、真菌における癌リスクを抑える新たな仮説を提案しました。

一部の真菌が利己的遺伝子の突然変異を防ぐために特殊なタイプの細胞分裂を展開し、癌のリスクを大幅に低くしているようです。

詳細は、2023年7月6日付で科学雑誌『MMBR』に掲載されました。

要点

・長寿のキノコの菌糸体は「クランプ結合」と呼ばれる特殊な細胞分裂を利用して利己的な変異体を選別していた

・キノコの菌糸体は「クランプ結合」によって癌のリスクを大幅に軽減していた

クランプ結合によって変異体を取り除く

ペトのパラドックスと長命菌類における「利己的」突然変異の可能性を視覚的に表現。

体が大きく寿命が長い生物と植物でも、観測される癌リスクは予想よりも下回る(Image Credit:Aanen,Padje & Auxiera, Microbiology and Molecular Biology Reviews, 2023 )

細胞分裂が起こるたびに癌になるリスクが上がりますが、長命種のほうが短命種よりも癌になりやすいということはありません。

この「ぺトのパラドックス」は、長命種が短命種と比較して抗癌メカニズムを持っているということで説明できます。

では癌はいつ発生し、どのようにして癌に対抗しているのでしょうか?

キノコを形成する菌類は、生涯の大半を染色体の完全なセットの半分を含む核で過ごします。そして胞子を形成する直前に、短期間だけ結合して無性生殖を行います。

このとき核に突然変異が起こると、核が結合する能力を奪われます。そして長い時間が経ち変異が蓄積するにつれて、変異した菌糸体が真菌を支配し、胞子を作る能力を低下させるのです。

この変異核は、2016年の先行研究で成長の早いアカパンカビの中に発見されたもので、発生した動物に害を与える癌と類似しています。

研究者らは、成長の早いカビと数百年も生きる長寿のキノコの菌糸体を比較しました。

その結果、長寿のキノコの菌糸体は、「クランプ結合」と呼ばれる特殊な細胞分裂を利用して利己的な変異体を選別し、遺伝的欠陥をあまり蓄積せずに長生きできるようにしていることが示唆されました。

つまり、長寿の菌類は、癌になりづらくなるための特殊なメカニズムを保有していたのです。

この結果は、そのまま人間や他の動物に適応することはできません。

キノコを形成する菌類に癌を抑える機能が備わっているとはいえ、それは他の動物には見られないからです。

しかしながら、ぺトのパラドックや癌の予防を解決する手がかりを与えてくれる可能性があります

生命が進化させてきたこの驚くべきメカニズムは、他の研究分野にも多くの示唆を与えてくれることでしょう。

参考文献

Longevity of Fungal Mycelia and Nuclear Quality Checks: a New Hypothesis for the Role of Clamp Connections in Dikaryons
https://journals.asm.org/doi/10.1128/mmbr.00022-21

Long-Lived Fungi Have Evolved a Way to Cheat Death For Centuries
https://www.sciencealert.com/long-lived-fungi-have-evolved-a-way-to-cheat-death-for-centuries