一粒の光子でも光合成は開始する！？光合成の始まりを初めて観測

2023年6月19日 2023年7月12日

木村典人

太陽からの光と二酸化炭素を利用して有機化合物と酸素を作り出す光合成は、すべての生命の基礎にあるといっても過言ではありません。

栄養を生産した植物を動物が食べたり細菌が利用するという食物連鎖が、生物界を形成しているのです。

しかしながら、この最も重要である光合成の反応過程の一部は未だに謎のままでした。

今回、カリフォルニア大学バークレー校を中心とした研究チームは、一つの光子から始まる光合成の瞬間を初めて観察しました。

今まで誰も知ることのなかった光合成の始まりの瞬間には、一体何が起きているのでしょうか？

詳細は、2023年6月14日に科学雑誌『Nature』に掲載されました。

・光合成の始まりを世界で初めて観察した

・光合成はたった 1 つの光子でも開始することを発見した

光合成は一つの光子だけで開始することを観測

光合成する葉（Image Credit: unsplash)

すべての動物と真菌類、それと多くの細菌類は自ら栄養を作り出すことができないため、従属栄養生物と呼ばれます。

それとは逆に、炭素を含む単純な無機化合物から複雑な有機化合物を生成する生物群は、独立栄養生物と言います。

従属栄養生物は独立栄養生物なしでは生きていけません。ですから、独立栄養生物が無機化合物から有機化合物を生成する化学反応は非常に重要になります。

その化学反応の中で最も有名なのが光合成です。光合成は、光のエネルギーを利用して無機炭素から有機化合物を合成する反応を指します。

しかしながら、光合成には未だに解明されていないことがあるのです。

共著者である化学者フレミング氏は、「光子の吸収によって何が起こるかは、理論的にも実験的にも膨大な量の研究が世界中で行われてきた。しかし、光合成の始まりについては誰も研究していないことに気づいた」と説明します。

光合成が利用する光のエネルギーは、光子が衝突した時に得られます。そこで研究者らは、一粒の光子が衝突するだけでも光合成が起こるのかを検証しようとしたのです。

今回、カリフォルニア大学バークレー校（UCB）を中心とした研究チームは、1つの光子がどのように細菌の光合成を引き起こすかを初めて観察し、光合成の最初のステップをついに明らかにしました。

ではこの研究の詳細を解説する前に、光合成の基本事項から確認しておきましょう。

光合成のために植物に向かう単一の光子（Image Credit:Jenny Nuss/Berkeley Lab)

光合成は植物が持っている葉緑体で起こります。葉緑体に光が当たるとクロロフィルという色素が光からエネルギーを吸収し、大気中にある二酸化炭素と水をグルコースという有機化合物と酸素に変換します。

ここで発生したグルコースが栄養となります。ちなみに地球上に存在する酸素の殆どは、植物の光合成によってもたらされています。

光合成の過程は1970年代後半からすでに知られていたようですが、原理の解明には長い年月を要しました。

19世紀初頭に、フランスの科学者によって初めてクロロフィルを単離、19世紀末に、植物学者のテオドール・ヴィルヘルム・エンゲルマンがクロロフィルの役割を明らかにしたようです。

さらに20世紀になると、励起された電子が葉緑体を介したエネルギー伝達に役立つといった光合成の生化学の詳細が明らかにされました。

その研究の過程で、葉緑体は光に非常に敏感であることが分かりました。例えば、植物は日陰でも容易に光合成を行うことができるのです。

しかしながら、どれくらい少ない量の光子で光合成が開始されるのか、その最初の瞬間は誰も観測できていませんでした。

そこでついに今回の研究に繋がります。

研究者らは、現代の植物や藻類と古代の祖先を共有する紫色光合成細菌に注目しました。

一度に 2 つの光子だけを放出する光子源を用意し、最初の光子は超高感度検出器に吸収させ、二つ目の光子は紫色光合成細菌の葉緑体に相当するものに衝突させたのです。

その結果は前述のとおり、二つ目の光子が衝突したあと光合成が始まりました。この実験は150万回以上も繰り返され、研究結果が誤りでないことを確認しました。

これにより光合成はたった 1 つの光子でも開始することが証明されたのです。

共著者のウェイリー氏は、「この実験は実際に一つの光子を使ってできることを示した。これは極めて重要だ」と述べています。

Single-photon absorption and emission from a natural photosynthetic complex
https://www.nature.com/articles/s41586-023-06121-5