殺虫剤を電子レンジで温めるだけで効果が飛躍的に向上！

2023年5月22日 2023年6月15日

木村典人

蚊; Credit : Unsplash

突然ですが、人間を最も殺害している動物は何でしょうか？熊や虎、蛇などの獰猛な動物たちが頭に浮かんできたのではないでしょうか。

驚くべきことに、人間を最も殺害しているのは獰猛な動物ではありません。正解は人間、ではなく、蚊なのです。

2016年にWorld's Deadliest Animalsが公開したデータによれば、2015年の1年間で殺害された人数は、蛇が3位で6万人、人間が2位で58万人、そして蚊が1位で83万人でした。

人間以外の動物でみれば、蚊の83万人が桁違いで高いです。血を吸われて痒くなるだけだと勘違いしてしまいがちですが、蚊はマラリア原虫を保有している場合があり、マラリアに罹って命を落とすことがあるのです。

特に、アフリカ地域ではマラリアの被害が非常に多く、蚊の対処は最重要課題になっています。

今回、リバプール熱帯医学研究所を中心とした研究チームは、殺虫剤の能力を飛躍的に向上させる簡単で意外な方法を発見しました。

その意外な方法とは、一体何なのでしょうか？

詳細は、2023年4月21日に医学雑誌『Malaria Journal』に掲載されました。

・最も人間を殺害している動物は、人間ではなく蚊である。

・殺虫剤であるデルタメトリンを電子レンジで5分間加熱すると、耐性のある蚊に対して効果が飛躍的に向上した。

・殺虫剤の化学組成を変えなくても、結晶構造を変化させるだけで効果が増大することがある。

加熱するだけで効果が約12倍も向上した？

ベッドに取り付けられた蚊帳; Credit : Unsplash

デルタメトリン：殺虫剤に含まれる成分の一つ。害虫駆除、動物用医薬品、公衆衛生において使用される。

蚊や害虫を対処するために、一般的に使用されるのが殺虫剤であるデルタメトリン（Deltamethrin）です。デルタメトリンは、蚊帳に染み込ませたり部屋の壁に噴射するなどして、それに近寄ってきた蚊を撃退します。

ところが、殺虫剤が使用されるにつれて、蚊にも耐性を持つものが生まれてきました。

耐性を持った蚊に対処するため、新たな殺虫剤を開発する。しかし、蚊は次第に新たな殺虫剤にも耐性を持つ。殺虫剤の能力と蚊の耐性の、終わりなき戦いが始まったのです。

その戦いに新たな糸口から、突破口が開かれました。

リバプール熱帯医学研究所を中心とした研究チームは、デルタメトリンを電子レンジで5分間加熱するだけで殺虫効果を飛躍的に向上させたのです。

耐性のある５種類の蚊に対して効果を検証したところ、蚊に対して100%で効果を発揮しました。それとは対照的に、従来の殺虫剤は4〜14%の効果しかありませんでした。

その効果は約12倍。電子レンジで5分間の加熱という簡便な方法で、耐性のある蚊を撃退することができたのです。

では、デルタメトリンを加熱すると、一体何が起きているのでしょうか？

電子レンジによるマイクロ波の加熱は、デルタメトリンの化学組成を変化させたわけではありませんが、結晶構造を再配列させました。

結晶構造を変化させるこの方法は、薬物の研究などでは用いられていたようですが、デルタメトリンに適用した研究者はいなかったようです。

加熱したデルタメトリンは、水に溶かすと再結晶の構造を失いますし、蚊帳に染み込ませた場合に効果が持続するかも不明のままなので、実用化にはさらなる検証が必要です。

しかしながら、殺虫剤の能力を強化する簡便な方法の発見は、多くの人々を救う可能性があります。誰でも簡単にすぐに強力な殺虫剤を作れる。そのような未来がすぐそこまできているかもしれません。

Overcoming insecticide resistance in Anopheles mosquitoes by using faster-acting solid forms of deltamethrin
https://malariajournal.biomedcentral.com/articles/10.1186/s12936-023-04554-x