地下水の枯渇によって地軸が大きく傾いていた!?

何かと話題にのぼる石油の埋蔵量。あと50年で枯渇するといわれたり、新たな石油の貯蔵地が発見されたり。

ですが取りすぎで問題になるのは石油だけではありませんでした。

今回、ソウル大学校を中心とした研究チームは、地下水の枯渇によって北極が年間4センチ以上も移動していると推定しました。

地球の自転軸が目に見えて傾くのに十分な量の地下水を人間は汲み上げていたのです。

では一体なぜ地下水の枯渇が地軸を変化させたのでしょうか?

詳細は、2023年6月15日に科学雑誌『Geophysical Research Letters』に掲載されました。

要点

・地下水の汲み上げが原因で、北極が年間4.36センチメートルほど移動していると推定された

・これまでの極運動のデータから過去の地下水の貯留変動を推定できる可能性が示唆された

地軸のぐらつきは何が原因でどのように観測されるのか

地球儀(Image Credit: unsplash)

自転軸の傾きを決定する要因は幾つかありますが、惑星形成から長い時間が経つと一定の傾きに安定します。しかし、惑星の内部や表面で大きな質量が移動すると、自転軸の傾きが変化することがあります。

著者でソウル大学校の研究者であるジョ氏は、「地球の表面で起こるすべての質量移動は、自転軸を変える可能性がある」と言います。

それでは地球の表面で起こる質量移動とは具体的にどのようなものがあるのでしょうか?

例えば具体的には、大規模な火山噴火や氷河や氷床の融解などがあります。

火山噴火では地球内部に存在していたマグマが地球表層に移動し、氷河の融解では北極や南極にあった氷が溶けて地球表層に拡がります。

どちらの現象も大きな質量を持つ物体が、地球規模で移動していることが分かります。

ところで、地球にいながら地球の自転軸の傾きを測定するためには、どのような方法があるのでしょうか?

その答えは、遥か遠方にあって実質的に動かない銀河の中心にあるクエーサーを観測する方法です。そのクエーサーを基準にすることで、地軸の動きを測定することができるのです。

地軸の変化の最大の要因は、季節的なものであることが知られています。季節によって大気の塊が大きく移動することによって、地軸は毎年最大数メートルも揺れ動いているのです。

地下水の枯渇が地軸を4センチメートルも移動させていた!

井戸ポンプ(Image Credit: unsplash)

そのような季節変化を取り除くと、前述のように、氷河の融解などが地軸を変化させています。

ところが氷河や氷床の融解した量のデータを使って解析しても、実際に起こっている地軸の傾きは到底説明できなかったのです。

ジョ氏は、表層にある水の貯留層の変化を計算に含めても説明できなかったため、これまで考慮されてこなかった地下水に注目しました。

これまでに行われた重力調査によって、インド北西部と北アメリカ西部では、灌漑によって引き起こされる地下水の減少が測定されています。

失われた水の量は1993 年から2010 年の間で正味2兆トン以上と推定され、その間に世界全体で6.24ミリメートルの海面上昇を引き起こすのに十分な量の水が海洋に移動したことを示しています。

今回、大学校を中心とした研究チームは、この地下水の移動をモデルに含めて計算したところ、北極が年間4.36センチメートルほど移動していると推定しました。

つまり、地下水の枯渇が地軸の変化に目に見えるくらいの影響を与えていたのです。

この結果は逆に、これまでの極運動のデータから過去の地下水の貯留変動を推定できる可能性を示唆してもいます。

地球規模の環境変動を起こしてきた地下水の移動。これまで明らかにされてこなかった地下水の貯留変動が、今後の研究で解明されるかもしれません。

参考文献

Drift of Earth's Pole Confirms Groundwater Depletion as a Significant Contributor to Global Sea Level Rise 1993–2010
https://agupubs.onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1029/2023GL103509

Rampant groundwater pumping has changed the tilt of Earth’s axis
https://www.nature.com/articles/d41586-023-01993-z