エルサレムの古代の遺跡から赤痢を引き起こす最古の寄生虫の証拠を発見

いつの時代も人類を悩ませ続けてきた赤痢(dysentery)。

赤痢は下痢・発熱・血便・腹痛などの症状がでる大腸感染症で、日本でも高度経済成長期前までは、年間10万人以上が発症し2万人程度の死者がでていました

人口が過密であったり衛生環境が悪いと赤痢の感染は広がるので、高度経済成長期以前の日本も衛生環境は悪かったのです。

今回、ケンブリッジ大学を中心とした研究チームは、そんな症状を引き起こす寄生虫の一つランブル鞭毛虫(Giardia duodenalis)が存在した最古の証拠を、2,500年前のエルサレムにある遺跡から発見しました。

この研究で、古くからランブル鞭毛虫によって感染症であるジアルジア症が、一般的に広がっていたことが証明されました。

それでは2,500年前に存在したランブル鞭毛虫の証拠が、どのように発見されたのかを解説していきます。

詳細は、2023年5月26日に科学雑誌『Parasitology』に掲載されました。

要点

・2,500年前のトイレの遺跡から、赤痢を引き起こす寄生虫の最古の証拠が発見された。

・赤痢は定住や動物の家畜の発生と同時に広がった可能性がある。

2,500年前にすでにランブル鞭毛虫が存在していた!?

エルサレムで発掘されたトイレと推定された遺跡。糞便用の大きな穴がある。(Image credit: F. Vukosavović)

用語

赤痢:下痢・発熱・血便・腹痛などの症状がを引き起こす大腸感染症。衛生環境が悪い場所で起こりやすい。
ジアルジア:別名はランブル鞭毛虫。糞口感染することで、下痢性の疾患であるジアルジア症を引き起こす。

研究チームは、エルサレムにある紀元前7世紀から6世紀に建設された権力者の住居であった可能性のある2つの大きな遺跡を調査しました。

そこには排便のためと推定される大きな穴と、排尿のためと推定される小さな穴を持つ、座るための曲線を持った石のブロックがありました。

その石は形状から便座だと考えられ、そこに残された当時の人間の糞にある微生物を研究するために格好の場所であることがわかります。

これまでの研究では、鞭虫や線虫、蟯虫や条虫の卵が見つかっており、鉄器時代の衛生環境が劣悪であったことが示唆されています

これらの寄生虫の卵は頑丈なので千年以上も保持されていましたが、赤痢の原因となる微生物は脆いため検出が困難でした。

では、どのようにしてジアルジアが発見されたのでしょうか?

研究チームは、ELISA(酵素結合免疫吸着測定法)と呼ばれる生体分子技術を用いました。この技術は、原生動物によって作り出される抗原を検知するもので、それ自体が破壊されてていても問題なく微生物を発見できます。

そこで研究チームが、2つの場所から採取された4つのサンプルを分析したところ、ランブル鞭毛虫が発見されました

ランブル鞭毛虫は、感染した人や動物の糞便が食物や水を介することで広がります。大抵はすぐに回復しますが、運が悪いと十二指腸から空腸上部に寄生し腸内壁を破ることで下痢や腹部の痙攣を引き起こすジアジル症を発症し、最悪死に至ります。

この研究結果は、過去の集団にランブル鞭毛虫が存在していた最古の証拠であり、この寄生虫が古くから存在していたことを示唆しています

ここから感染者数や当時の環境を推定するのは難しいようですが、メソポタミアの医学書には3,000 〜4,000 年前で既に下痢の問題について言及されています。

それらの研究と近代以前の環境ではこの症状が一般的なことから、定住や動物の家畜の発生とともに赤痢も広まったのかもしれません。

微生物や病気がどこで発生し、貿易や移住に伴ってどのように広がっていったのか、今後も更なる研究が期待されます。

参考文献

Giardia duodenalis and dysentery in Iron Age Jerusalem (7th–6th century BCE)
https://www.cambridge.org/core/journals/parasitology/article/giardia-duodenalis-and-dysentery-in-iron-age-jerusalem-7th6th-century-bce/FD98E6D61F8D264616547EA4EBED69E4

Ancient toilets unearthed in Jerusalem reveal a debilitating and sometimes fatal disease
https://edition.cnn.com/2023/05/25/middleeast/ancient-toilets-disease-scn/index.html

2,500-year-old poop from Jerusalem toilets contain oldest evidence of dysentery parasite
https://www.livescience.com/archaeology/2500-year-old-poop-from-jerusalem-toilets-contain-oldest-evidence-of-dysentery-parasite

Mid-7th century BC human parasite remains from Jerusalem
https://www.sciencedirect.com/science/article/abs/pii/S1879981721000838?via%3Dihub