仲間の死骸を認識したハエは早く死んでしまう?
夏になると頻繁に見かけるようになるハエ。そんなハエに関する奇妙な研究が報告されました。
ハエの死骸をそのまま放置しておくと思わぬことが起こるかもしれません。
今回、ミシガン大学を中心とした研究チームは、キイロショウジョウバエ種のショウジョウバエが同種の死骸を見るとその寿命が大幅に縮むことを発見しました。
ショウジョウバエにとって仲間の死とは何を意味するのでしょうか?そしてショウジョウバエは人間と同じように仲間の死を悼むのでしょうか?
詳細は、2023年6月13日に科学雑誌『PLOS BIOLOGY』に掲載されました。
要点
・キイロショウジョウバエ種のショウジョウバエは仲間の死骸を見るとその寿命が大幅に縮むことを発見
・死骸を認識すると特定の領域にある2つのニューロンが活性化し老化を早める可能性がある
仲間の死骸を認識すると老化を早めるニューロンが活性化
ハエ (Image Credit: unsplash)
用語
ショウジョウバエ:ショウジョウバエ科に属するハエの総称。その一種であるキイロショウジョウバエのことを指すことが多い。
蛍光タンパク質:紫外線等の短波長の光を照射すると蛍光を発するタンパク質。
ショウジョウバエの奇妙な生態については、これまでにもすでに報告されていました。
研究チームの先行研究では、ショウジョウバエが同じ種のハエの死骸を認識することで、衰弱して死期が早まることが示されていましたが、その理由は不明のままでした。
そこで研究チームは、ショウジョウバエに生じた不思議な現象を神経科学の観点から研究することにしました。
ショウジョウバエは仲間の死骸を認識すると、引きこもりのような行動をとり始め体脂肪が減少します。そして死骸を認識していない他のハエよりも早く老化が進むのです。
研究者らは、ショウジョウバエに蛍光タンパク質を注射し、死骸となった同種のハエを認識させたときに、脳のどの部分が反応するかを観察しました。
その結果、死骸を認識していない他のハエと異なり、特定の領域にある2つのニューロンが活性化していたのです。そしてこれらのニューロンが活性化されることで、ハエの老化プロセスが加速したようなのです。
このことに対して研究チームは、「仲間の死の認識が神経回路に与える影響を理解することは、他の感覚体験やヒトを含む個体の行動と生理に、特定の神経状態がどのような影響を与えるかについての洞察を提供する可能性がある」と述べています。
また、同様の現象は他の動物でも観察されているようです。仲間の死骸に対して、昆虫がそれを運搬したり、象が泣き声を出したり、人間以外の霊長類においてグルココルチコイドと呼ばれるホルモンの濃度が上昇することが知られています。
これらの結果はまだ人間の脳に適応できるわけではありません。ハエと人間の脳では構造も大きさも大きく異なります。ですがこれらの結果が、脳と老化のプロセスを理解する上で役立つ可能性があることもまた確かです。
研究者らは、「死の認識による生理学的影響とそのメカニズムを理解することで、日常的に死を取り巻くストレスの多い状況にいる人々を治療するために役立つかもしれない」と書いています。
ストレスと老化と死。この研究さらに進めることで、死によるストレスに悩む多くの人々が救われるかもしれません。
参考文献
Ring neurons in the Drosophila central complex act as a rheostat for sensory modulation of aging
https://journals.plos.org/plosbiology/article?id=10.1371/journal.pbio.3002149
Seeing Dead Flies Makes Other Flies Die Faster, But Why?
https://www.sciencealert.com/seeing-dead-flies-makes-other-flies-die-faster-but-why