砂漠でも空気から無制限に水を抽出できる素材を開発！

2023年6月16日 2023年6月16日

木村典人

砂漠や干ばつにおける水の入手方法は、世界で最も議論されている重要な問題のひとつです。

水がなければ人間も動物も生きることはできず、農作物を育てることはできません。

今回、マサチューセッツ工科大学（MIT）の研究者らは、空気中の水分を吸収して水を抽出できる超吸収性ヒドロゲル素材を開発した。

この素材を用いれば、空気中から水を抽出できるため井戸などの他の水源を必要としません。

開発された素材は極めて画期的で、砂漠や干ばつの問題を解決する可能性があります。

詳細は、2023年6月15日に科学雑誌『Advanced Materials』に掲載されました。

・MITの研究チームは、砂漠のような環境でも空気から水を抽出できる素材を開発した

・開発された素材は、相対湿度 30% の乾燥状態で1gあたり1.79gという驚くべき量の水を吸水することができる

開発された素材の驚くべき能力

砂漠（Image Credit: unsplash)

ヒドロゲル（hydrogerl）：ハイドロゲルともいう。水を媒体とするゲルの総称。具体的には、寒天やゼラチンのゼリーなど

水源がないところか水を得るにはどうしたらいいか。日本に住む人々にはあまり馴染みがない問いですが、砂漠や干ばつに悩む人々にとっては切実な問題です。

この問題を解決するために、これまで研究者たちはヒドロゲルに注目していました。ヒドロゲルは紙おむつなどの製品に使用される天然吸収性物質で高い吸水性を持つ素材です。

ヒドロゲルは塩化リチウムを注入することで吸湿力を大幅に高めることが知られていました。

しかしながら、注入できる塩化リチウムの量に限界があったのです。

今回、MITの研究チームはこの限界を更新することで、砂漠のような極度に乾燥した環境においてもこれまでにない程の高い吸湿性を達成しました。

共著者のひとりでMITの院生であるディアス=マラン氏は、「この材料は少ない費用にもかかわらず高性能であるため、非常に大きな可能性を秘めてる」と語ります。

この素材を大規模に製造することができれば、水回収装置として利用できる可能性があります。そうすることで砂漠のような環境でも、空気中から水を収集できるかもしれないのです。

では一体どのようにして、注入した塩化リチウムの量を大幅に更新したのでしょうか？

水（Image Credit: unsplash)

これまでの研究では、一般的に24〜48時間かけてヒドロゲルに塩化リチウムを注入していました。

その場合、塩化リチウムはヒドロゲル 1 gあたり4-6gしか注入できませんでした。そのヒドロゲルは、相対湿度30%の乾燥状態で1gあたり約1.5gの水蒸気を吸収しました。

確かにこの吸水性でも高いようですが、砂漠の環境を想定すると十分ではありません。

そこでMITの研究チームは、数日または数週間かけてヒドロゲルに塩化リチウムを注入してみたのです。

その結果、これまでに記録していた量の4倍の量を注入することに成功し、ヒドロゲルの吸湿性を大幅に高めました。

この結果はヒドロゲルの性能をどれくらい向上させたのでしょうか？

開発されたヒドロゲルは、相対湿度 30% の乾燥状態で1gあたり1.79gという驚くべき量の水を吸水しました。

これほどの吸水性がある場合、夜間の砂漠で水を生成できる可能性は十分あります。

今回は塩化リチウムの注入時間を長くするという簡単なアプローチで、これまでで最高の吸湿量を得ることができました。

次の目標は水の吸収率を高めることにあると言います。1日で1回の吸水ではなく、何回も吸水できるようにする。それができるようになれば、乾燥した地域の水問題は解決へと大きく前進します。

この開発された新たな素材は、エネルギーがほとんどかからない点も魅力的で、この分野における大きな進歩となる可能性があります。持続可能な水の収集に向けて、最も注目すべき研究の一つであることは間違いないでしょう。

Extreme Water Uptake of Hygroscopic Hydrogels through Maximized Swelling-Induced Salt Loading
https://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1002/adma.202211783